それが、はじまり。

他種族にとって、僕らタルタルはいつまでも子供であるように映るらしい。
確かにタルタルはある時期より容姿の成長を留め、
外見上ヒュームやエルヴァーンのように老いることはない。
しかし、こう見えても一応、僕はれっきとした成人男性である。
とは言いつつ、周囲からの子ども扱いが楽な所為もあり、僕は未だ中身も子供のままなのであった。

それに対し、彼女はどちらかというと大人びた性格の女性だった。
面倒見がよく話題も豊富で、何の機会に知り合ったかは忘れたが、
僕は珍しく自分から友達になって欲しいと申し出たものである。
勿論、彼女がそれを拒むことはなく、更には再会の約束までもらって以来、
僕たちは良い友人関係を保っている。

そんな彼女に対して、僕は一つだけ疑問があった。
それは、その髪型のこと。
彼女はいつも、タルタルでも少女が好むような二つ縛りに髪を纏めている。
確かにそれは愛らしい彼女に良く似合っている。
でも、面と向かって話しているとその髪型は彼女にとって幼すぎる気がするのだ。
何かこだわりでもあるのだろうか。もしや、どこかの誰かに褒められたとか……。

気になって気になって、とうとう彼女に質問をした。

「そっか、やっぱり子供っぽいかぁ。」
微苦笑を浮かべ、彼女は軽く視線を落とす。
「でも髪を下ろして仲間内に顔を出すと、いつも結われちゃうのよね。」
彼女の所属しているリンクシェルにタルタルは少数であるらしい。どうしたって物珍しさは否めない。
仲間達の、彼女への親愛の情が子ども扱いへと形を変えた。
最初の頃は抵抗を試みたものの、そうそうむげにも出来ず、
彼女は毎度女性陣に髪を結われ続けたそうだ。
いつしかそれが疎ましくなり、最近では自分から結って出向くようになったと言う。

「どうしても子供に見られちゃうのよね。確かにそれは仕方がないのだけど。」

自分より年下のヒューム女性に髪を結われた時、流石に切なくなったと彼女は笑う。
外見が幼いから、仕草や行動までそうあるよう無意識に求められてしまう。

「……被害妄想、かなぁ?」

困ったように眉を落とした彼女の、その纏めた髪が揺れた。
僕は思わず手を伸ばす。
意識するより先に、この手が彼女の髪留めを外していた。

ふわり、と彼女の髪が風に舞う。

「可愛い。」

「えっ?」

「僕もタルタルだから君を子供だとは思わない。だけど、君は可愛い。」

困惑したように彼女の丸い瞳が僕を見つめている。

「僕は、君のことが好きです。」

「……。」

「あっ、困らせたいわけじゃなくて、ただ、この気持ちを伝えたかったんだ。」

僕はずっと子供でいられると思っていた。だけど、そうじゃなかった。
恋をし、エゴや葛藤を知り、大人になる。
それは誰にも止められるものじゃない。

「そんな顔しないで。良かったら、これからも友達でいてくれる?」

急に臆病風が吹いて、気を遣う振りをして少し逃げた。
こんなことじゃ、僕は嫌な大人になってしまうかもしれない。

「あの……。」

彼女が小さく声を発した。
頬が見る見る内に赤く染まり、ひどく可愛らしい。
ついつい僕が見惚れていると、

「わ、私もあなたのことが好き、だから……友達じゃ嫌です……。」

消え入るように彼女が言った。

「えっ。」

思わぬ返事に体中が熱くなる。
しばらくの間、僕たちは互いに赤い顔で向き合い俯いていた。

勇気を出して、彼女に片手を差し伸べる。

そこに彼女が手を重ねた。

――これが僕の、大人への始まり。

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